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「弱りましたねえ……」
 一つため息をついて、ディアンは頭へと手を当てた。
 まだ血の滲んでいるおでこは、ひりひりと痛む。先ほど村の者に石を投げつけられた結果だった。
 とりあえず食料をと買出しに出たディアンだったのだが、それを果たすことはできなかったのである。
 どこへ行っても買い物に応じてくれるどころか、話もしてくれなかったのだ。そして更には石を投げつけられる始末である。
 どうやらよほど嫌われてしまっているらしい。
「兵糧攻め、というわけでもないのでしょうけどね……」
 こんな小さな村だけに、昨夜の一件についてはすでに村全体に知られてしまっているらしい。元々僧会に対して良い感情を持っていない場所だけに、今後その態度が改善されることは難しいだろう。
 何にせよ、食料の調達ができないというのは問題だった。イリスはともかく、自分は飢えてしまう。
 イリスが物を食べないのは、アルゼスから託されてよりずっとだった。食事どころか、睡眠も最近ではあまり取っているようには見えない。数日に一度、眠る程度だ。
 しかしそれで何か無理をしている、というわけではなく、それが彼女にとってはごく自然なことらしい。やはり人間とは、根本的に何かが違う。
「しばらくはブラフト・ダーンまで足を伸ばすしかないですね。あとは……菜園でも作りますか。そうなるとイリスにも手伝ってもらうことになりますねえ」
 想像してみるが、イリスが畑をいじっている姿というのは、なかなか想像しにくい。となると、余計に見てみたくもなる。
 ブラフト・ダーンまで行った時に、野菜の苗でも探してこよう――と、のんびり考えていた時だった。
「おや」
 不意に、その足が止まる。
 教会へと続く細い道の先には、まるで待ち構えているかのような男達の姿があった。後ろを振り向けば、背後にも男達が現れている。
 その数、二十人弱といったところ。
「みなさんお揃いで、どうしました?」
 男達から放たれている殺気など気にした風も無く、ディアンは神父らしく平静に尋ねた。
 見たところ、野盗の類ではないだろう。察するに、この村の人間か。
 しばらく対峙が続いたが、ややあって彼の前へと、一人の男が進み出てきた。
 髭をはやした、体格のいい中年の男である。
「あなが代表者で?」
「そうなるな」
 ぶっきらぼうに答える男。
「お前が昨夜この村に来た神父だな?」
「はい、そうです」
「――あの三人を殺したのは、お前か? それとも教会に残っている方か?」
 単刀直入な問いだった。
 ディアンは素直に答える。
「いいえ。私ではありませんよ。私の連れが、です」
 あっさりと認めたことに、周囲の男達がざわついた。今すぐにでも襲われそうなほど、怒気と殺意が満ちている。
「……なるほど。レザレフの報告は正しいようだ。あの三人を殺したのは、小さな女ということだったからな。正直信じられんが、警戒しておく必要はあるだろう」
「昨夜のことは認めましょう。ですが、先に仕掛けられたのはあなた方では?」
「黙れ!」
 背後から誰かが叫んだ。
「元はといえば、貴様らが悪いんだ!」
「そうだそうだ! てめえらが勝手にやってきて、城主様を殺したんだろうが!」
「こんな奴ここで殺しちまえ!」
 弾かれたように、口々に怒声が飛び交う。
「……なるほど。ではやはり、ここに派遣されてきた聖職者を害していたのは、この地の者――この村の方が、ということだったのですね」
「この村に僧会の者はいらん。いくらブラフト・ダーン城を奪ったからと言って、このクリセニアまで手に入れたつもりになるな」
「まあ、そう思われるのは当然でしょうね」
 クリセニアはラウンデンバーク家の統治が長く、領民はとても懐いていた。それに加え、ブラフト・ダーンの魔女と呼ばれ、異端の盟主であったプラキアの存在も大きい。この地には、彼女を盟主と頼む異端者も、数多くいたのだから。
 それを一方的に侵略した僧会が、良く思われないのは当然のことである。
「で、これから私はどうなるのでしょうか?」
「とりあえず、一緒に来てもらおう。昨夜のことも含めて、今後のお前の行く末について裁判をする。まあ、死刑だろうがな」
「断ると?」
「死刑執行が早くなるだけだ」
 ここにいる人数をもって、嬲り殺すということだろう。
 これだけの人数で囲まれてしまえば、まず普通の人間ではどうにもなりはしない。
「どうする。さっさと決めろ」
 返事も待たずににじり寄って来る男達の足音をしばし聞きながら、彼は瞑目し、そしてぎりぎりのところで口を開いた。
「わかりました。あなた方に従いましょう」


 ナルヴァリア男爵領――オルセシス城。
 レダがこの城に来るのは、初めてではなかった。
「――お久しぶりです」
 どうやら相手もそのことを覚えていたらしく、気さくにそう話しかけてくる。
「覚えていただけていたとは光栄です。男爵閣下」
 ナルヴァリア男爵アレイウス・ウォルストーンに対して膝を折ると、レダは完璧な礼に則って一礼した。
「はは、僕の前で堅苦しい礼儀作法は抜きにして下さい。あなたはプラキア様の代理として、ここまでいらしたのですから」
「ですが、私はただのプラキア様付きの侍女に過ぎません。閣下とは、身分が違います」
 これは形式でも何でもなく、心からの彼女の気持ちだった。
 ただの妖魔に過ぎない自分にとって、まだ異端の王の血を色濃く引いている魔族というのは、尊敬の対象であり、また羨望もしていたのだから。
 そう――プラキアやブライゼンのように。
 最も慕っているはずのフォルセスカは……どうしてだか微妙だったけど。
 そんな様子に、彼は笑う。
「何を言われますか。一介の侍女が、このような役を与えられるわけもないでしょう。これも全て、プラキア様の信頼厚き証拠。誇りを持って下さい。今の、自分の存在に」
「あ……」
 そんな風に言われて、驚いたようにレダはアレイウスを見上げた。
 そして、少し恥ずかしそうに頷く。
「……はい」
「それでいいんですよ。さて、まずはご用件を伺いましょう。いつもの情報交換は、後でということで」
 表向きには僧会への理解の深い諸侯の一つとされているナルヴァリア男爵家であるが、実際には異端の家系であり、プラキアの実家でもある。
 そのためクリセニア侯爵家との関係は深く、秘密裏に長い間、お互いに協力してきていた。ブラフト・ダーン異端裁定後も、僧会の動きを知る上での貴重な情報源の一つとして、ナルヴァリアとゼルディアはお互い定期的に、情報の交換を行っている。
 いつもはイグナーンがその役を負っていたのだが、今回からレダがその使者となることになった。
「わかりました。まずはプラキア様よりの伝言を。――アレイウス様には、諸侯への仲介役をお願いしたいのです。もちろん、異端の血をひく諸侯へ、ということになりますが」
「ほう……」
 異端の血を引く貴族というのは、意外に多い。
 その魔族の力故に諸侯となった者もいれば、その不老と力欲しさに、悪魔に魂を売り渡すかのようにして血を得た者も、また少なくはないからだ。
 無論、その事実は僧会も知ってはいる。しかし相手が諸侯だけに、なかなか手を出せずにいるのだ。そういう中であったブラフト・ダーン異端裁定は、非常に珍しいことであったと言っていい。
「では、今後ゼルディアは動くということですか?」
「それは……わかりません。詳しいことは知らされていませんし、フォルセスカ様やプラキア様が何をお考えなのかも、私ではわかりません。ですが、私の希望としては……」
 いつか、クリセニアを取り戻したい。
 彼女がそう思っていることは、紛れも無い事実。
「とにかく、まずは交流を持ちたいと、そういうことではないかと思います。僧会の力は大きくて、それを私達だけの力で対抗するのは難しい……。だからこそ、協力が必要なんです」
「確かに……。プラキア様はご健在とはいえ、今まで盟主であられた方の在ったクリセニアが奪われたことにより、異端の中に動揺は大きく広がっています。それは諸侯とて例外ではありません」
 僧会に反感を持つ者も、少なくはない。しかし表立って批判をすることもできずにいる。レダの言うように僧会の力は大きな上、実際クリセニアが異端裁定によって軍事的に蹂躙されたのを、目の当たりしているからだ。
 しかし今後、その矛先がどこを向くかは分からない。その時に単体でいては、簡単に滅ぼされてしまうだろう。だがその時に他者との繋がり――協力体制があれば、話はずいぶんと変わってくる。
「わかりました。時間はかかるかと思いますが、できそうなところから接触を図っていってみましょう。協力は惜しまぬと、お二方にお伝えを」
「ありがとうございます」
 その返答にほっとなって、レダは今まで緊張で硬くしていた表情を緩めた。その時浮かんだ笑顔を見て、彼はどこか満足そうな顔になる。
「……ところで、ゼルディアでの生活はどうですか? 住み慣れたクリセニアを離れて、ご苦労もあるかと思いますが」
「あ、はい……そうですね。でも、生活の不便というのは……あまり感じていないです」
「そうですか。あなたは……ずっとプラキア様の侍女を? ええっと……確か、レダ、といいましたか?」
 アレイウスに名を呼ばれて、今更のように思い出す。
 直接彼に、己の名を名乗ってはいなかったのだ。
「レダ・エルネレイスといいます――すみません、ご無礼を」
「いえいえ、最初に尋ねなかった僕も悪いんですから。――それで、少し話してもらえませんか? あなたのことを」
「え……? 私のこと、ですか?」
 少し戸惑いながら、聞き返す。
「ええ。初めてお会いした時から、どうしてだか気になっていたものですから。少し、あなたのことを知りたいんです」
 駄目ですか、と気遣うように聞かれて。
 その時感じた優しさに、彼女は微笑を浮かべる。
 直感的に、いいひとだと思った。
「大して話すことなんでないですけど……それでいいのなら」


「おいマジかよ……」
 村の外れにある小さな小屋の中で、柱に縛られている青年の姿を見て、レザレフは思わず天井を仰いだ。
「おいベイク。オレちゃんと言ったぜ? 早まった真似するなって。ちなみにこれ、レダの伝言」
「別段、何も早まったことなどしていない」
 ベイクと呼ばれた髭をはやした男は、淡々と答える。
「いや、早まってるだろ。こりゃどー見ても」
 柱に縛られているディアンは、暴行を受けた後のようで、ぐったりと床に沈んでしまっている。
 裁判とやらの前に、昨夜の三人の恨みとばかりに、村の男達に殴られ蹴られした結果だった。
「しっかしなあ……。今回派遣されてきた神父が、まさかこいつだったとはな」
 どこか深刻な顔つきになって、レザレフはディアンを見返す。
 間違いなく、この男のことは知っている。
「知っているのか?」
「ああ。オレの昔の雇い主だよ。どーりで聞いたことのある声だと思ったぜ」
 何度かディアンから仕事を受けたことがあった。もっとも正式な雇い主はナプティカルド・ベルヌークであり、彼はその代理人に過ぎなかったが。
「何者だ?」
「名前はディアン・コレリア。僧会の神父だよ。アトラ・ハシースでもあり、僧会の実力者だったベルヌークの右腕だった男だ。まだ若いけどな」
「……なぜそんな男がこのような所に?」
「さあな。ベルヌークは死んだっていうし、今僧会はけっこうごちゃごちゃしてるらしいからな。ま、色々あったんだろ」
 確かにベイクの言う通り、ただの巡回神父などをするような男ではない。いかにベルヌークを失ったとはいえ、簡単に成り下がるような奴ではないはずだ。
 今までこの男を見てきた経験上、少なくともレザレフはそう思う。
「なあちょっと聞くぞ。こいつ、何も抵抗しなかったのか?」
「しなかった。できる状況でもなかったと思うがね。二十人近くは使った」
「二十人ねえ……」
 浮かない顔で、彼はディアンを見返す。
「大人しくついてきたからって、嬲り殺されるのはわかってるだろうに。なーんか変だな……」
 ディアンの実力は知らないが、それでもアトラ・ハシースなのだ。ただの僧兵などに比べれは、遥かに強いはず。
 第一この男は馬鹿ではない。
 大人しく捕まった以上、何かを考えていないはずがない。
 と、今更のように思い出した。
「おい、もう一人はどうした? どこで拉致ってきたのかは知らねえけど、もう一人いたはずだ。ガキの女が」
「お前からの報告は聞いていたから、この神父が別行動を取った時に実行した。この男も言っていたが、あの三人を殺したのはもう一人の方らしいからな」
「なるほどね……。一応警戒したってわけかい」
 レザレフの報告を信用したということは、ベイクはそれなりに彼の実力を認めているという証拠だった。
 どうやら以前、元アトラ・ハシースのハルガーニを手際良く暗殺したことを、高く評価してくれているらしい。
 実際それまでの間、この村の者がハルガーニを相手にてこずっていたのだから。
「恐らくもう一人はこの神父の護衛だろう。その女もアトラ・ハシースか何かだろうが、その中でも腕が立つようだ。真正面から挑むのは、分が悪い」
「……すると何か? こいつを囮にして、罠でもかけようってか」
「そんなところだ」
 あっさりとベイクは認めた。
「うーん……」
 相手が強いと分かっている以上、待ち受けるという方法は確かに悪くない。悪くないのだが……何となく、レザレフはすっきりできないでいた。
 どうにも引っかかる。
「……オレとしては、レダが帰ってくるまで控えていた方が良かったと思うんだけどなあ」
 レダは今、オルセシスに行っている。
 徒歩ならばそれなりに時間のかかる距離であるが、今回はヴァーグラフと一緒だったから、そんなに時間がかかってはいないだろう。
 用事が済みさえすれば、すぐにも戻ってくるはず。
「エルネレイス様のお手を煩わすまでもない。結果だけを報告すれはいいだろう」
 その単調な声の中に、微かに敬いの響きを潜ませて、ベイクは言った。
「……まあ、オレはいいけどね。どうせ他所者だし」
 このラウ・ダナンという小さな村において、レダはちょっとした偶像となっていた。
 数年前にブラフト・ダーンは落ち、それまで異端の盟主だったプラキアもゼルディアへと去ったという。しかしその生死も定かではなく、新しい僧会の統治の前に、クリセニアの民――この村の者も、不安を隠せなかった。
 そんな村を偶然通りかかったレダの事を、知っている村の者がいたのだ。
 それは、侍女として常にプラキアの傍にいたが為に、覚えられていただけのこと。しかしそれだけでも、村人にしてみればプラキアへと繋がる重要な人物だったのである。
 彼らはレダに対し、一体どうなっているのか詳しい情報を求めた。自分の主を慕う者を相手に、彼女も無視することもできず、親切に状況を教えたのである。
 それがきっかけとなり、それ以来彼女は暇を見てはこの村を訪れ、村人もそれに懐いていった。
 プラキアに仕え、またフォルセスカの近い所にいるレダは、今では偶像のような存在になってしまっていたのである。
「ラフマン君。もちろん君にも手伝ってもらう」
「げ。マジ?」
「この村には兵士の経験のある者も少なくないが、それでも君に比べれば稚拙な者ばかりだ。君のような技術のある者がいてくれると、心強い」
「いや、オレ、あんまりあのガキとやり合いたくねーんだけど」
 殺し合いに慣れているレザレフでも、あの少女ともう一度刃を交えるのは遠慮したかった。
 理由といえば、一言怖かったから、だろうか。
 何より一度でも、あの少女を相手に仕事は果たせないと判断してしまったのだ。その時点ですでに失敗している。
「だが手伝ってもらわねばならん。必要とあれば、エルネレイス様に許可を取るが」
「くそ、卑怯な」
 レダの名を出されると、もう頷くしかない。
 不本意ではあるのだが、今の雇い主はレダなのである。
「あー、あんなのがオレ様のご主人様とは、焼きが回ったもんだぜオレも」


「そうでしたか……」
 レダの話を聞き終え、神妙な表情でアレイウスは小さく頷いた。
「これまで苦労をされてきたのですね」
「いえ……そんなことはないです。思い返してみれば、私は運が良かったんだと思います」
 フォルセスカに救われ、ラウンデンバーク家に預けられ、プラキアに仕え、今ではまた彼の近くにいられる……。
 確かに運は良かったのかも知れない。それが、不幸中の幸いといった程度のものであったとしても。
「それに、苦労は別に構わないんです……。大変でも、哀しくはないから」
 そう答えるレダを、アレイウスはしばらく見つめた。
 まだまだ未熟な感は否めないが、それでも強い少女だと思う。
 恐らく、侍女などで収まる器ではないだろう。いずれ、その身が異端になくてはならないものになっていくような……そんな気がする。
 この少女になぜだか惹かれている自分に気づき、彼は苦笑して話題を変えた。
「少し、聞きすぎてしまったようですね。こちらも僧会のことでいくらか情報がありますので、お話します」
「はい」
 僧会の情報に彼が詳しいのは、アレイウスが僧会に対して敬虔な信者を演じているためである。そのため諸侯の中では比較的信用されており、僧会への出入りもし易い。
「ラルティーヌ大司教が退かれて以来、僧会はきな臭い状況が続いているようです。現在アトラ・ハシースのトップには、ロナウド・アッシアーニ大司教がついていますが、どうやら彼は今、コルセシアへの派兵を検討しているようですね」
 アッシアーニ大司教はベルヌーク司教の派閥にいた人物であり、アルゼスが身を引いた後の混乱をうまく渡り、現在の地位を手に入れていた。
「異端裁定――ということですか?」
 現在、異端裁定は枢機卿権限で凍結されているはず。
 にも関わらず軍を動かす気配を見せているとなると、これは由々しき事態である。
「表向きは違います。あくまで布教活動の一環――ということらしいですね。大した大義名分ですが」
「でも、コルセシアなんかを……?」
 レダは首を傾げた。
 王領コルセシアは、ゼルディアとクリセニアの北に位置する地域一体のことで、一応王領という建前になっている。しかし実際はというと、廃領といった方が正しかった。
 この土地はかつての魔王シュレストが統治していた地であり、その後勃発した継承戦争によって、ことごとく破壊されてしまったのである。また単純な破壊だけではなく、数多くの呪いの傷跡が、各地に残っているという。
 そのため呪われた地と忌まれ、その後数百年もの間、人々はコルセシアに近寄らなかった。
 しかしそれはあくまで外の人間が、である。
 実際にはコルセシアに住む者は多い。また小城主が乱立していると言われ、それぞれが覇権を争い、恒常的に内戦状態が続いている。
 ある意味ゼルディアよりも遥かに危険な土地なのだ。
「僧会はコルセシアに住む者を蛮族と位置付け、僧会の教えはほとんど行き届いていないと考えています。そのため教えを広めにいく――というのが名目になっていますが、実際には違うでしょう。これは僕の考えですが、恐らくアッシアーニの地位確立のための布石だと思います」
 アトラ・ハシースのトップになったとはいえ、未だ彼の地位は不安定である。
 そのため、蛮族の地とされているコルセシアを管理統治できるようにすることで、それを功績とし、権威を高めるつもりなのだろう。
 しかし異端裁定は凍結されており、特にゼルディア方面への外征は難しい。そこで目をつけたのがコルセシアだったのである。
「コルセシアはゼルディアとも接しており、この地を管理できるようになれば、二方面からゼルディアを牽制できるようになりますからね。凍結理由は一応、僧会の力の回復にありますから、後のことを考えても有利な戦略と言えます。……もっとも、コルセシアを手に入れられるかどうかは、また別の話ですが」
 彼の話を聞いて、レダは思い出したかのように口を開く。
「最近……フォルセスカ様、よくお出かけになっているんです。聞いたら、北の方に用事があるって……」
「かの方が、コルセシアに?」
「それは……わかりませんけど」
 その可能性は低くないと、レダは思う。
 いつも気楽そうにのんびり構えているフォルセスカだが、反面よく情勢を見通しているのは間違い無い。
 彼は城のことはプラキアに任せ、よく出歩いているが、それもただの道楽ばかりというわけでもない。何かしら、彼女の知らないところで動いている。
「フォルセスカ様が何を考えているかなんて、私にはまだ……わかりませんから」
 近くにいることを拒まれはしないけど、多くは話してくれない。……悔しいけれど、自分はまだそんな程度だ。
「とにかく、コルセシアに関する情報は、逐一お伝えしましょう。ゼルディアにとっても、無関係な話ではありませんからね」
「はい。ありがとうございます」
 アレイウスの申し出に、レダは頷いた。



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